物見遊山でうろちょろChina その2 -董源 or 張大千? (上海博物館編)-

先月中国に行った最大の目的は上海博物館で開かれていた特別展「美国蔵中国古代絵画珍品展」
見ることでした(中国ではアヘン戦争以前、または辛亥革命以前は古代です)。
上海博物館では豪勢なことに他にも元青花、銅鏡、ファベルジェと特別展が四つも同時に開催中!!
しかも中国では数年前から国の方針で主要な博物館・美術館は全て無料になっていて、
特別展まで全部タダで見られるんですよ!!
ちゃんと情報収集してなかったので元青花展までやってたのにはビックリ仰天しました。。
結局丸々三日間上海博に通うはめになっちゃいました...

で、件の「絵画珍品展」。。
メトロポリタン、ボストン、ネルソン=アトキンス、クリーヴランドというアメリカの中国絵画五大コレクションの内の四つから優品を選んで持って来るというぜーたく極まりない企画
 (もう一つは一応フリーア美術館ね。あそこは館外貸出厳禁なので誰も持って来られません)。。
こういうのはやっぱ祖国じゃないとできまへんな~。。一昨年の日本収蔵中国絵画展に続く第二弾です。

中でも一番見たかったのは、1997年にメトロポリタン美術館に寄贈された時から多くの人の関心を
集めて来た伝・董源作「渓岸図」。。
台北の大観展にも出てたそうですが、行けなかったので初対面でございます。。

b0283699_14234069.jpgこの絵、以前に『芸術新潮』(2002年5月号)でも大きく取り上げられたのでご存知の方も多いでしょう。メトの発表では南宗山水画の祖とされる10世紀の画家、董源による稀有の傑作ということだったのですが、この絵の旧蔵者が張大千だったことから話がもつれ始めます。大千は20世紀の中国を代表する偉大な画家であると同時に稀代の贋作者としても悪名高い人物だったからです。
ジェームズ・ケーヒル、古原宏伸、シャーマン・リーといった研究者が大千贋作説を唱え、多くの人々がそれに反論するという形で議論が進みました。
古原氏は勿論、ケーヒル、リーの両氏も比較的日本と関係の深い学者であるところが面白いですが、現在でも確かな結論は出ていません。。
大陸や中国系の学者の人たちは董源真筆とまで言えるかどうかはともかく宋以前の古い絵だろうと考えている人が多いようです。

というわけで、私ごときが見ても判る訳はないんですが、かねてより野次馬根性から一目拝んでみたいものだと考えていたのでございます。。

でもこんな素晴らしい作品がたくさん来ていて、しかも無料なのに結構快適に見られるってのも良いような悪いような...まぁ、ガラスケース越しなのは仕方ないとして、思う存分熟覧できたのはありがたいことでした。。

伝董源「渓岸図」,221×109cm,10~20世紀,メトロポリタン美術館蔵


で、なるべく先入観を排して率直に見た感想を記すと、、まず董源真筆ってことはないでしょうね~。。

そもそも中国の学者以外は董源の真作は一点も現存していないって考えてる人が大半でしょうし...
ですから基準作と比較するなんてことは望むべくもなく、董源作とされてきた作品の中から、実際に彼の作品を見たであろう宋時代の沈括や米芾の董源評に近くて、かつ様式的な流れからも10世紀江南画の雰囲気を残していそうな模本や仮託作を真作を偲ぶよすがとして選ぶ、というのが現代の我々ができる精一杯のところだと思いますが...
そういう基準で「渓岸図」を見ると、あまりにも作為的に多くの表現を詰め込んでいるように思われて宋時代の前に置くなんてとても無理だと感じます。既に実景から離れて絵から絵を創るイディオムがよほど溜まってきた時代の絵のような...五代から北宋初期の山水画というと唐代までの観念的な山水から脱皮して雄大なパースペクティブを水墨で表現できるようになった画家の感動や喜びが画面に表れてて欲しいと思う気持ちがあるんですけど...全然そういった初発性は感じられない絵ですよね。
ついでに言うと従来言われてきた通り黒川古文化研究所の伝董源「寒林重汀図」は五代絵画らしい風格を備えた優れた模本なんだな~とあらためて見直しました(隣に並べて欲しかったぞ)。。
でも当時の絵画がほとんど残っていない現状では、あくまでも今私たちが利用できる片々たる資料から判断して、、という限定を付けなければならないのがもどかしいところですけれども...

一方、それじゃこれは張大千の贋作かと問われると、いくら大千が天才でもこれだけ見事に古画らしい絵を偽造できるもんなのか、という一抹のギモンも感ぜざるを得ません。。
他の大千作の偽物は図版で見ただけですが自力で判別できるかどうかはともかく、ニセモノと言われれば「確かにそうかもなー...」という感じ。。もっともこれは今だから言えることで、故宮のコレクションが広く公開されてなかった60年代位までは大千の五代・宋画の贋作を自信を持って退けることができた人はほとんどいなかったでしょう(実際幾つかの有名美術館も彼の贋作を掴まされています)。。それが「渓岸図」の場合はもし大千作だとしたら「大千すげーなー」って素直に思っちゃいますね。。
釈然としない絵ではあるんだけど...

折衷案という訳ではありませんが、宋~明末頃の擬古作という可能性も指摘されています。
というよりこの可能性が一番大きいのかも。。
でもなんかその手の宋や明末の伝称作品にも見えないんだよね~
う~ん、なんか本物に見えて来た...いやいや贋物?...いやいや...ちょっと座って休まないと...[◎凸◎]

ふぅ~、まじめに絵を見ると疲れますよね。他の絵を見て気分を転換。。

いや~「渓岸図」にアテられた頭で見ると、本物ってのは実に好いですね~
意地の悪い眼であーだこーだと穿鑿しなくていいからかな??
伝・喬仲常の「後赤壁賦図巻」(ネルソン=アトキンス美術館)、大徳寺旧蔵の五百羅漢図(ボストン美術館)、
陳容の「九龍図巻」(ボストン美術館)などはもう心が洗われるようでしたよ(ー。ー)フゥ。。


閑話休題。。
それにしてもいつものことながら大陸の研究者の方々の鑑識眼ってのは謎ですな。。勿論ちゃんとした先生もいるんですが、本に載ってるのは全て真作という前提で研究してる(?)ような人もいて...他の国で言えば美術史学者じゃなくて文献学者と思った方がいいのかも知れませんが、そういう人が美術館で働いていたり真贋について堂々と論拠不明の文章書いてたりするミステリー...
国が広いといろんな人がいます...

なんだかオチの無い話を延々としちゃったので、同時に開催されてた元青花展については次回改めて書くことにしましょう。。
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by brevgarydavis | 2013-01-06 14:31