推薦本ノンデマンド vols.1 ”エスケナージの 『 A DEALER'S HAND 』 ”

何日か前に、近所のガレージセールで3ドルで買った中国の白いお碗をサザビーズに出品したところ、
なんと223万ドル(2億1千万円)で落札されたというニュースが世界を駆け巡りました(イイですなぁ...)

この定窯の白磁碗を落札したのが、ロンドンの有名な美術商エスケナージ。。
中国の古美術に関しては世界一のディーラーです。
最近このエスケナージ(G.ESKENAZI)の半生を回顧した本が出版されました。
キレイな図版も沢山載っていて、中国美術好きの人には必読の本なので軽くご紹介など。。

b0283699_046525.jpgA Dealer's Hand: The Chinese Art World Through the Eyes of Giuseppe Eskenazi

エスケナージ家はイスタンブール出身のユダヤ人の家系。一家そろって前フランス大統領のサルコジさんみたいな顔してます(欧米人が見れば典型的なユダヤ顔なのでしょう)。
一家は銀行業のかたわら1923年ミラノで日本や中国の美術を扱う美術商を始めます。

この本の主人公、ジュゼッペ・エスケナージ(b.1939)は13歳の時にロンドンに留学し、1960年からはロンドンの父の店を手伝い始めます。ま、ここらへんから紹介しだすと何十ページ書いても足りないので結論だけ言うと、このジュゼッペの才覚によって1970年代くらいからエスケナージは一流の中国美術商として頭角を表し始めることになる訳です。

本の中ではエスケナージの顧客だった世界中の著名コレクターが紹介されていて、それぞれは比較的そっけない事実関係の記述が主とはいえ、やはりそこらへんがこの本の一番の読みどころ。。

日本人も60年代から80年代にかけては中国美術の主要な買い手の一角を占めていましたから、松岡清次郎氏や安宅英一氏を始め何人もの人たちが登場します。
中で一番面白いのはやはりMIHO MUSEUMのくだりかな~。

1990年11月、彼の妻のローラが次に開催する「中国古代の象嵌美術」という展覧会のカタログを作るためにギャラリーのライブラリーの大きなテーブルに作品を広げている所へ、いつの間にか一人の日本人が勝手に入ってきて「ここにある作品を全部買いたい」と切り出したんだとか。驚いたローラがジュゼッペにそれを伝えに行った時の彼の最初の反応は「その男をつまみだせ」だった由。┐(-。ー;)┌アタリマエカ...
この日本人こそMIHOのコレクションの形成に中心的な役割を果たした古美術商の堀内紀良氏。
 (以前紹介した金のバックルもこの時一括で購入したものの一つです)
この本を読んで初めて知りましたが、1996年メトロポリタン美術館でMIHOのコレクションによる展覧会が開かれたのも、I.M.ペイがMIHO MUSEUMを設計したのもジュゼッペの紹介によるらしい(ヘェー)。

日本人以外では、
アメリカでの主要な顧客としてはクリーヴランド美術館やロックフェラー、アーサー・M・サックラーなど。
特にクリーヴランドのシャーマン・リー館長との付き合いは深かったようですが、長くなるので省略。。

ヨーロッパではなんと言っても玫茵堂(Meiyintang)コレクションで知られるZuellig兄弟。
もともとフィリピン生まれのスイス人で、医薬品流通業(ズーリック(ズエリグ)ファーマという東南アジア中心に1兆円近い売り上げがある会社です)で財をなした一族ですが、ヨーロッパの中国陶磁コレクションとしては大英博物館に次ぐ質・量のものと言っていいでしょう。日本でいうと出光の中国陶磁・青銅器部門くらいの量が安宅コレクションのような上品なテイストで集められた感じかな。
この本でも一番多く取り上げられているのが彼らのコレクションですが、残念ながら2011年一部がオークションに掛けられました。ただそれは恐らく兄弟の一人が亡くなったことによる相続分の一部で、大半はスイスに残るんじゃないかと思います(現在リートベルク美術館に寄託中)。


(閑話休題)
こうしたコレクターのエピソードを紹介してたらほんとキリがないので...。
素晴らしい作品が山ほど掲載されてますが、眼についたものを何点かだけ紹介させて下さい。。

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左上から
①饕餮文方斝、h.34cm、B.C.12-11c ②彩画鏡、d.28cm、前漢 ③鍍金竜、L.46cm、前漢 ④玻璃貼釉耳杯、L.14cm、戦国末期 ⑤青銅人物台座燭台、h.23cm、漢 ⑥三彩馬頭官人坐像、h.22cm、8c ⑦青花鸚哥図大盤、d.76cm、永楽頃 (所蔵は全て個人蔵、日本語の作品名は私が仮に付けたものです)


①の方斝は類品が北京故宮やフリーアにありますがかなり少ない器形。

②のように背面に顔料で人馬などが描かれた戦国~前漢時代の銅鏡は三十数面が知られていて、国内にも九博所蔵の3面(1面は東博から移管、重要文化財、残り2面は九州ビルヂング寄贈)や根津美術館所蔵品(村上コレクション)、破片ですが糸島の甕棺から出土したものなどがあります。しかしその中でも②はダントツで状態の良い見事なもの。e国宝の九博の鏡と比較して見て下さい。

③は何に使ったのか私には全然分からず。

④は装飾として器に数種の色ガラスを貼り付けたもので同様のものは世界に6点のみとか。これまでは東博所蔵の小壺が有名でしたが、それと比較にならないほど保存状態が素晴らしいです。

⑤は力士?が燭台を掲げるという趣向でしょうか。仮に燭台としましたけど多分蝋燭じゃなくて油を燃やしたもの。この手の古代中国の金属製人物像はある程度デフォルメされたものが多いですが、これは兵馬俑と遜色ないくらい見事な写実性を誇る傑作。特徴的な帽子はどっかで見た気がするけど思い出せない...

⑥も大珍品ですね。獣頭人身の陶俑像は十二支セットのものが幾つか知られていますから(国内では早大会津コレクションなど)、これももと十二支全部あった内の一つかも。しかし他の十二支俑はみな加彩の簡素なもので、三彩像はこれのみだと思います。

⑦は全く同図様の日本伝世品がスペシャルな作品として以前から著名でした。確か信州伝来で直径72cm、元~明前期の伝世した完形青花磁器としては最大の盤として知られていたもの(ただし大破してますけど北京故宮には75cmの盤あり、景徳鎮出土品にも大きいのがあった気がします)。
しかし⑦はそれを上回る76cmの巨盤!!(官窯磁器には必ず類品ありってのを思い知らされますね)
これ位の大きさになると4cmは製造時の誤差の範囲内でしょうから日本伝世品と元々セットだったかとも思われますが、日本のには外縁に「大明宣徳年製」銘が入っていたはず。これは無款のようでこの本では永楽にアトリビュートされてます(確かに写真で見る限りでは青みが強く日本のより永楽っぽい)。
銘がないのを永楽年間の傍証と見るか、それともこれだけ特別な作品なのだから日本伝世品と同時期の焼造と見るか、判断の分かれるところですね。


他にも本文中を含めると600点近い作品の図版が載っているこの1冊。日本の展覧会カタログよりはちょっと高いけど、英語読まなくても図版見てるだけでも十分元取れますよー(^ー^)。
   
(個人的に残念だったのは不言堂の坂本五郎氏が昔オークションで落札して有名だった元青花釉裏紅貼花文壺が既にエスケナージに売却されていたのを知ったこと。致し方ないこととは言え不況が20年も続くとポロポロ名宝が流出しますね...箱根にできる岡田美術館あたりが買い戻してくんないかな~。)

    
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by brevgarydavis | 2013-03-31 00:49