山形で、世界の起源や石膏像の起源について考えた。

仙台まで若冲見に行ったついでに、お隣の山形県にもちらっと立ち寄って参りましたのでご紹介。

主な目的は山形美術館で吉野石膏コレクションを見ること。。
吉野石膏コレクションは印象派などの近代西洋絵画と近現代の日本画を主とするコレクションで、
西洋絵画は山形美術館に、日本画は天童市美術館に寄託されています。
(吉野石膏は現在は東京に本社がある会社ですが、元々は山形県で創業された由)

東京ではBunkamuraや日本橋三越で展示された時に見てるんですが、ぜひ本場の山形で見たいもんだとずっと思ってたんですよー。
公的な美術館(山形美術館は正確には財団法人の運営で県立でも市立でもありません)に常設展示されてるフランス絵画としては質量ともに西美に次ぐ規模のもの。ピサロ7枚とかモネ6枚など量的にもスゴイですし、セザンヌやマネなどたいへん魅力的な作品も多くあります。。その一方我が国のこの手のコレクションの通弊で、なくもがなって作品も結構あるね(まぁそこらへんは好みの違いと思って我慢するか...)。

b0283699_21205836.jpg中でも一番見たかった1枚といえば、左のクールベ作「ジョーの肖像 美しきアイルランド女」(54×64cm、c.1872)。
なぜって彼女ジョーことジョアンナ・ヒファーナンは今はオルセー美術館が所蔵するかの「世界の起源」(良い子は見ないでね❤)のモデルだと言われている女性。男なら下だけ見て顔を見られないってのはどうにも落ち着きませんよね。
でもそのために山形までしっかり「世界の起源」のコピーを持って出向いちゃう自分って...ヾ(- -;)。。
ただおケケの色が髪と違い過ぎるな…(観察は忘れませんよ(`ω´)キリッ )。

メトロポリタン美術館(1865)やスウェーデン国立美術館(1866)にも同構図のヒファーナンの肖像があり、この作品は直接的にはストックホルムのレプリカと思われますが、1872年というクールベの気力もかなり衰えて来た時期の再制作品なので図版で比較する限りでは出来はやや前二者より落ちる感じ。
それでもこういう美術史的に話のネタになる作品が日本にあるというのはありがたいことです。
 (ちなみに2001年にサザビーズで187万5750ドルだったもの)


閑話休題。。

吉野石膏って聞いてもあんまり普段の生活に馴染みはないような気がしますよね。
でも調べて見ると意外に我々一般人にも縁のある会社なんですよ~。。
まずは住宅やオフィスの壁とか天井とかによく使われてる石膏ボード。7~8割は吉野石膏の製品ということですから、皆さんもお世話になってるに違いありません。
あるいはグラウンドの白線(これは正確には石膏じゃないみたい)や陶磁器,入れ歯なんかの型として。
意外なところでは私たち日本人は日常的に石膏食べちゃってるって知ってました?
お豆腐の凝固剤として石膏(硫酸カルシウム)は普通に使われてるんですよー!
 (最近は昔ながらの「にがり」(塩化マグネシウムが主成分)で凝固させた豆腐も増えてますけど
大人の日本人だったらこれまでの人生で1キロ位は石膏食べてる計算になるようです(+_+;)...。

しかし美術に関係ある石膏と云えば、、
なんといっても美大生のデッサンとか、お金持ちのお宅の飾りに使われるあの石膏像

かつて高校の美術の授業でラボルトをデッサンさせられた時、「日本の石膏像のおおもとは東京藝大にあって、各地の美大なんかにある像はそのコピー、今みんながデッサンしてるのはその又コピーのコピーのコピーぐらいの像なんだぞ~」って美術の先生が言ってたのが妙に印象に残りました。
「ふーん、じゃあ藝大の像が一番価値が高いのか...日本中の石膏像の親子関係が知りたいもんだ」と今思えばやけに美術史的な興味を抱いたのを覚えています(当時は特に美術好きって訳でもなかったんですけどね)。。
その先生は藝大の像はボストン美術館から貰ったもんだとも言ってましたが、荒木慎也氏の研究(『近代画説』20) によるとボストンから贈られたものはルネッサンスの大形像が中心でラボルトやミロヴィ、アグリッパといった美大受験生にお馴染みのメジャーな像は含まれてないみたい。。そうしたものはお雇い外国人が持ちこんだり東京美術学校がフランスから輸入したものらしい。

同じ石膏像でも例えばV&Aのキャストコートに展示されてるような素晴らしい逸品と近所の画材店で売ってるようなカドの甘々な像とは質の面で天と地ほどの違いがありますよね。
藝大に収蔵されてる像も一応はオリジナルからのファーストコピーの類なんだろうと想像しますがどうなんでしょうか...日本の石膏像の質は大枠それ次第な訳ですからね...(ちなみに韓国の石膏像も日本の系統らしいです)。

石膏像の制作はルネッサンス思想の高まりを受けて古代彫刻の発掘が盛んになった16世紀頃から本格的に始まったようで、19世紀には古代ギリシャからルネッサンスに至る名作彫刻の石膏像を系統的に収集展示することが欧米で大流行します。
しかし20世紀に入ると、苟くも美の殿堂たる美術館に偽物やコピーを展示するなどあってはならぬというホンモノ志向が高まり、しょせん複製芸術に過ぎずオーラに欠けると見做された石膏像は次々とお蔵入りの憂き目に...。ボストン美術館の場合も場所を取るのでお払箱にしたかった所に東京美術学校からそれなら譲ってほしいと申し込みがあって渡りに舟だったみたい。

しかし考えて見れば、ブロンズ作品では鋳造によるコピーが立派に本物として展示されてる訳ですし、古代ローマの大理石彫刻だって石製ってだけで多くはギリシャ作品からのコピーに過ぎません。
石膏像だって本来はそんなにバカにしたもんじゃないはずですよね。その上今じゃもとの彫刻から新たに型を取るなんてのは認められる可能性ほとんどゼロですから、早い時期にオリジナルから制作された良質の石膏像の価値は決して低くないんじゃないでしょうか。

V&Aはじめフランス文化財博物館やプーシキン美術館など一部の美術館では今でも石膏像が立派に展示されてますが、それ以外でも欧米の歴史のある館には19世紀に作った質の高い石膏像がたくさん収蔵庫の中で死蔵されてるに違いないと想像します。

b0283699_14135397.jpgで、吉野石膏さんっ!
お願いだからどっかからその手の石膏像一括で買ってきて山形美術館に寄贈してくれませんか!
これほど石膏屋さんに相応しい貢献はないでしょ!藝大よりも質の高い日本一の石膏像コレクションが山形にあるなんて愉快じゃないですか!(東京に展示するとバカにする欧米人がいそうってのもあるけど)。どうせ向こうの美術館でも持て余してるんでしょうから、「ヨーロッパに行けない貧しい日本の画学生の為に」とか言いくるめれば激安価格で展示しきれないほど譲ってくれるんじゃないかな~。

ってなことを、とりとめもなく考えながら山形から新幹線で帰ってきたのでした...。

(徳島の大塚国際美術館なんかも聞いた時は「そんなインチキなもん作る金があったら...」と思いましたが、行ってみたら結構凄いところでしたしね)

(上の絵は山形美術館とは関係なくてメナード美術館の新収品で現在初公開中のゴッホです(10月6日まで)。むかし竹井美術館にあった絵ですけど未見なので近いうちに行って見なきゃ!)
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by brevgarydavis | 2013-07-10 21:48