10年に一度のお楽しみ・・・<一誠堂古典籍善本展示即売会>・・・

まだいささか(かなり?)暑いですけど、稍く燈火親しむ候も近づいてまいりました。
この季節多く開かれる大小様々な古書即売会や古本まつり、ブックフェアなどを楽しみにしている愛書家の皆さんも多いことでしょう。

その手の催し物がたいてい年に一回なのに対して、十年に一度いいかげん忘れた頃にやってくるのが
一誠堂の創業○○周年記念「古典籍善本展示即売会」でございます。。
(十年一昔、、世の中は着実に変わってるのに全く進歩してない自分が怖い...)


b0283699_04532.jpg今回は創業110周年記念。
90年、100年の時にも見に行きましたから、
無事生き長らえて眼福に与れたのを喜ぶべきなのか、
はたまた展示品を購えるようになる見込みが絶無なのを悲しむべきなのか...(90周年の時にはいつかこういう本を買える様になるぞ!って思ったんですが、、、若気の至りであった(´ε`;)...)。
きっとブログ等で紹介されてるだろうと期待して検索したら誰も書いてないようなので、野次馬で見物に行くだけの私が頼まれてもないのにちょっとだけ御紹介。。

展示品の特徴を一言でいえば、
正に日本文化の王道的品揃え。。
物語・和歌といった王朝文学から古記録、仏典、漢籍、図像集、版本、浮世絵まで数は50件と少ないながらも例の如く涎が落ちそうな(じっさい落としたら非常にマズイことになる)本が集まっております。


 ①源氏物語【54帖、鎌倉後期写(補配補写あり)、伝・猪苗代家旧蔵】、3億2千万円b0283699_19103654.jpg

近世初期写の「花宴」「須磨」「明石」の3帖を除いてほとんどが14世紀に遡る古写本。
40帖以上が別本系ということですから本文の価値は精査しなければ正確には分からないんでしょうが、数ある源氏の古写本の中でもベスト20か30くらいには入る重要本であることは確か。
今でこそこうした新出本の本文を比較するのもさほど難しくはなさそうですけど、最初に数十の諸本を手探りで校合した池田亀鑑先生の偉業は改めて凄まじいですね(私なんか谷崎訳で1回読むだけでいっぱいいっぱいなのに...)。
猪苗代家伝来というのは単なる権威付けのための仮託かな?


 ②白描源氏物語絵巻(54帖揃)【19巻(紙高10.5~12.5cm),室町写(7巻江戸写)】、2億2千万円
いわゆる小絵の白描源氏。普通中世の紙は30×50cm余のサイズですから横に2分,3分して用いれば縦10~15cmほどの小さな絵巻ができあがります。これが小絵。。現存する最古のものは14世紀前半に遡る聖徳太子の事績を描いたものですが、典型的な小絵というと女性が喜びそうな題材を扱った15~16世紀頃に制作されたものが中心。土佐光信(工房)が描いた幾つかの作品が有名で、彼の周辺が小絵流行のおおもとである可能性が高そうです。この手の白描源氏絵巻もしばしば伝承筆者を光信の娘(画を能くし狩野元信に嫁いだとも)とするものがあり、実際にそうした土佐派による原本的な作品があったのかも知れません。ただし現存する作例は多様で共通の祖本などなさそうですし、画風も素人っぽいものが多くて宮廷で絵の上手い女御などが手遊びに作ったものかとも推定されています(当時は絵の具の調合から始めなければならない彩色画はハードルの高い職人仕事と思われていたのに対して、普段使い慣れた墨と筆で描ける白描画は中国なら文人、日本なら貴族でも嗜める優雅な趣味と思われていました)
一瞬、2億2千万!?高っ!と思いましたが何と19巻もあるということで納得(宇治十帖7巻は江戸に入ってからの補写ということですが)。こんな浩瀚な白描源氏は聞いたことないわー!スペンサー・コレクションの6巻本がこれに次ぐ位ですかね。掲載された図版で見ると2種の画風があり、一方はかなり本格的な土佐派っぽいもの(下図。もう一方は明らかに素人画家)。これはじっくり実見する必要ありだな~。
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 ③明月記【1巻(29.6×1023.6cm)、寛喜元年5月・6月条】、3800万円
『明月記』 とは言うまでもなく藤原定家(1162-1241)が生涯に亘って書き連ねた膨大な日記。。当時の貴族社会では過去の先例に対する知識の有る無しが一家の沽券に大きく係りましたから、多くの貴族が自身や子孫の後鑑とすべく日々の細々とした記録を日次記という形で書き残しました(一方 『蜻蛉日記』 のような女性が書いた日記は今で言うとプライベートな回想録に当たります)。中でも明月記は定家という人物の重要さと余計なエピソードが比較的多いことから読んで面白い日記の一つ(難しいけどね)。今も大半が冷泉家に伝えられて国宝に指定されていますが、庫外に流出したものも少なくありません。
今回の売り物は1229年5~6月のまるまる二ヶ月分が残る自筆本。これまでは慶長写本でしか知られていなかった部分ですし(つまり1615年以降数十年の間に冷泉家から出た可能性が高いということになります)、『明月記』は掛軸になった断簡でも百万円単位の値段が付きますから10メートル以上の巻子本で3800万円というのは意外と安い気がしますね。
近年の冷泉家の文庫調査の大きな成果の一つとして、これまで定家の自筆と思われてきた写本の中に定家の筆跡を真似て他人が写したものが多く含まれていることが明らかになってきました。つまり筆耕者として動員された家族や使用人が何人もいたらしいんです(そうでなきゃあんだけ膨大な写本は残せませんわな)。『明月記』も例外ではなく、大別すると①定家が実際にその日付の頃に書いた原本、②定家自身による清書本、③他人による清書本、の3種があるようで、筆跡の変遷などを基に清書や加筆推敲の時期を探るといった研究も盛んに行なわれています。下の1巻は紙背文書がある一方、整然と余白行なく書かれていることや上下の界線の存在から②の定家自筆の清書本とするのが妥当でしょうか。
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 ④地蔵縁起絵巻【1巻(紙高30.8cn)詞5段・絵6段、鎌倉後期写(旧法然寺本)】、1億6千万円
地蔵菩薩をテーマとした絵巻は、矢田地蔵縁起絵のように特定の仏像の縁起を描いたものと様々な地蔵の霊験・利生譚を集めて絵巻にしたものの二種類に大別できます。さらに後者には中国の話を絵巻化したものと日本の話を絵巻化したものがあり、14世紀以前に遡る作品としては中国の霊験譚を集めたものとして妙義神社本と東博本、日本の霊験譚を集めたものとしてフリーア本と旧法然寺本(今回の絵巻です)の4件(各1巻、おそらく元は各々もっと浩瀚だったもの)が知られています。フリーア本と④とでは明らかにフリーア本の方が古くて優れた作例なんですが、1図だけ共通の図様があって画風からもフリーア本が④の直接の祖本かも知れません。。また④と東博本は画風は全く違うのに詞書の書風は同一筆者かと思われる位そっくり!(不思議だ~)。率直に云ってしまうと④はこれら4件の鎌倉時代の地蔵霊験絵巻の中ではちょっと作行が劣る感じで、詞書が東博本と共通でなければ室町時代の作かなと思うほどなんですが(東博本はまず間違いなく14世紀前半頃の作)、実は私は一度も実見したことはないのであまり適当なことは言えませぬ。。再び個人の所蔵に入るともう生きてる間には見られないかも知れないので気合を入れてしっかり見てこなければ...。
「子とろ子とろ」という昔の鬼ごっこを描いた有名な段があるのでそこを開いててくれると嬉しいな~。

 ⑤初代鳥居清倍「市川団蔵の金王丸」【大々判(約53×32cm),宝永頃】、1200万円
清倍いいですね❤。初めて見る図柄ですけど保存状態も抜群で今回出てる浮世絵で貰えるとしたら迷わずこれ!(買えよ、って話ですな)。たしか浅野秀剛先生も以前一番好きな浮世絵として清倍の「市川団十郎の竹抜き五郎」を挙げられてましたけど全く同感です。いま個人的に日本美術関係で最も開催して欲しい展覧会は「初期鳥居派展」だぜ!(もう若冲はいい...)。
千葉市美術館あたりで頑張ってくんないかな~。
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  ⑥田中親美・模写「西本願寺本三十六人集」【34帖、各頁20×15cm前後、20世紀】、6500万円
親美翁(1875-1975)については以前五島美術館の記事でも触れた記憶がありますが、数多の平安の古筆や装飾経、絵巻などを料紙から復元して完コピしまくるという空前絶後の偉業を残したエライ人。。以前翁制作の素の料紙が売られてたのは記憶にありますけど、こんな浩瀚な模本が売り物になってるのを見たのは初めて!(◎_◎;) ジェジェ!それでも近代のコピーに6500万は高いんじゃないの?と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、これだけの多種多様な料紙を一から復元して千数百頁に亙る和歌を一流の書家に染筆してもらったらとても1千万やそこらじゃ収まらないはず。。翁制作の復元模写は既に単なるコピーを超えた評価を受けてますし、本物なら2,3枚でこの値段だしね~。
西本願寺本の模写としては1902~07年頃に35帖を制作(内11帖を東博が所蔵)したのを手始めに、大正9年の年記がある模本も知られていますが、目録に制作年が書いてない所を見るとこれはさらにその後に作られたものでしょうか。図版で見る限りでは東博本よりこなれていて完成度が高い印象。
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ちなみに親美模本を代表する「平家納経」の場合は結局5セットの模本が制作されたと言われています【厳島神社に納めたものと翁自身の控え分、後に作られた益田家(→東博)、大倉家(→大倉集古館)、安田家への3本】。
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田中家(福田家)というと「年中行事絵巻模本」の所蔵でも有名ですが、翁は模本制作を依頼された際には必ず2セット制作して一つを自らの手元に残すのを常としていたとか。今でもお宅には展覧会できる位色んな作品やら資料やらが残ってるんだろうな~。いつの日か拝見したいもんですわ。。

(参考;右は原本「能宣集」の当該頁。こうして見ると原本の保存状態の良さにもビックリですね!) 

 ⑦唐人絶句【存21冊(1冊欠)、1190-95年刊(1221-23年修)、惟高妙安旧蔵】、4億6千万円
b0283699_0202439.jpgb0283699_027387.jpgんーむ、4億6千万ね...
21冊で割れば宋版としてはそれほど高くはないか...本邦に古くから伝わったものなれど大陸帰国決定かな~。

それにしても絵に描いたような欧陽詢風の見事な書体。。うっとりしますね~。浙江あたりの刊と見て良いんでしょうか。
小さな字なら明朝体をはじめとする現代の活字も悪くはないですが、これ位の大字になると宋人の版下による整版の美しさには敵いませんね。せめて国語ぐらいはあのマヌケな教科書体を止めて欲しい...。
第18冊を欠くのが惜しいですが、版面の品格はそれを補って余りあります。

 ⑧芥子園画伝・二集【全4冊(蘭竹菊梅)、康熙40年刊】、2800万円
b0283699_0323640.jpgb0283699_0363019.jpg何年か前に大東急記念文庫本の複製本が出ましたが(15万円!当然買えず)、今回の目録解説によるとそれよりも早印という貴重なもの。若干の虫損はあるもののこれだけ美しい康熙本は日本・中国に数本しか残っていないでしょう。俗な浮世絵版画の清雅なルーツの一つ。


<一誠堂書店創業110周年記念古典籍善本展示即売会>
ホテルグランドパレス2Fチェリールーム にて(地下鉄九段下駅徒歩2~3分)

   10月11日(金) 午前11時~午後5時
   10月12日(土) 午前10時~午後5時

の両日開催です。

誰でも無料で気楽に見学できますから(バッグ類は預けなきゃないので手ブラがお薦め)、
お閑な方は秋の一日 【古本見物】+【神保町でカレー】 など如何ですか?
もちろんお金があれば購入も可能ですよ!!(申し込み先着順也)。


≪ さっそく行って見ました ≫
金曜日のお昼頃に速攻で拝見。。50点中10点くらいに既に予約済のシールが貼ってありましたよ。
上に紹介した中では「明月記」と「芥子園画伝」がSold out (たしかにどっちも安めの値付けな気がしてました)。一方「唐人絶句」は何十年も前から一誠堂の在庫にあったみたいですし、前回100周年の時の目玉の一つだった「新撰和歌髄脳」(1億2千万円)も今年の8月に文化庁に売れたばっかりですから、資本のある骨董屋や古書肆というのは優雅な商売で羨ましいですな。。
「地蔵縁起絵巻」は図版で見るよりもずっと繊細で感じが良かったです(やはり実見しないで適当なことは言えませんね)。巻物は怖いので裸で置いてあった「源氏物語」だけ頁を捲ってペタペタ指紋付けてきましたよー(# ̄ー ̄#) 。
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by brevgarydavis | 2013-09-15 15:22