国立西洋美術館外からのお知らせ
ハードディスク毀れました(涙)。
もう3,4ヶ月前ですけど。
激しく脱力、、西美のデル・サルトやフェルメールの感想書く元気も湧かず...
普段外付けのHDに画像とか保存してて、
時々もう一台のHDにそれをバックアップしてたんですが、容量の関係で
一旦バックアップ用HDの前データ全部消去してから新しくバックアップしてたんです。
それがよりによってデータ消去したタイミングで元データHDも破損というありえない展開!
何日か前からカタカタ音がしてたんでバックアップを急いだのが裏目だった...。
日本美術や中国美術中心にスキャンしたり撮影したりした画像20万枚以上入ってたのに
全てパー。気持ちいいくらいにクルクルパー。。笑っちゃいますね。
データリカバリーできるかどうか診断できるフリーソフトで調べてみようとしたんですけど
診断終了まであと600時間かかりますって表示が...うそだろーって思い1日つけっぱなしに
してみても、ちょっとしか進まず。
へぇ~ホントに600時間かかるんだ~、、、ってやってられんわー!!
データ復元っていくらかかるんでしょうね。数万円ならいいけど数十万じゃなぁ...。
でも何かを失った時に感じるこの自由さは何だろう...?
犬が死んだときに心の中で思った、悲しさとウラハラの
「もう散歩連れてかなくていいのか...」みたいな...(ポチごめんな~)
ま、うちのデータ管理状況書いてもしょうがないので
数ヶ月前に書こうと思ってた国立西洋美術館のアンドレア・デル・サルトについて一言二言。
西美がデル・サルト買ったってのをネットで見て
頭に浮かんだのは2000年1月28日N.Y.サザビーズに出て話題になった下(左)の作品。
(100~150万ドルの評価で出品、下限の100万ドルで落札)
近年デル・サルトの油彩の出物なんてそれ以外に記憶になかったですからね。
西美のサイトに画像が掲載されたのを見たら、やっぱその聖母子像だったあるよ。
なんでそんな昔のオークションを覚えてたかというと、
発見、出品の経緯が一般のニュースになる位話題になった絵だったからです。
この絵、もとは20世紀初めにクララ・ウィンスロップという人がマサチューセッツ州の小さな教会に寄贈したもの(ちなみにウィンスロップ家はマサチューセッツ湾植民地初代知事のジョン・ウィンスロップから続くニューイングランドの超名家で、ブッシュ前大統領やケリー国務長官も血縁の一人です)。
寄贈者も教会も200年位前のコピーだろうと思ってて近年は倉庫に放置されてたんだそうです。
オールドマスターズの絵には時々ある再発見ストーリーですね。
で、サザビーズとしてはなるべく劇的な発見という風に盛り上げて
高く売りたかったんでしょうけど、結果はいま一つでした。
率直に言って絵自体が精彩を欠くものでしたし、
後にサザビーズが作品の状態を正直にレポートしてなかったんじゃないか、工房作とするのが妥当なんじゃないかっていう疑惑も持ち上がりました。
さて、この絵、実は同じ図柄のヴァージョンがオタワの国立美術館にあるのが以前から知られていました(下の右の絵)。

向かって左が西美が買った作品。右がオタワ国立美術館蔵。
二つの作品を較べてみると、、
オタワの作品の方には、ポントルモやロッソ・フィオレンティーノに受け継がれる白けた感じのカラフルな色彩やスフマート、あるいはサルト独特のやや陰りのある表情なんかがよく表れてて間違いなくサルトの真作だと思うんですけど、西美の作品は全体にいかにも硬い感じで、顔の表情にも深みがなくのっぺりした印象ですよね。。
状態も良くないし、西美の解説パネルが近年の補作(19c~20c初め位の意?)という背景の緑がかなり不快なのを除いても正直あまり優れた作品だとは思えん。
では以前のオークションの時に問題となったように基本工房作なのかというと、隣に展示してある弟子のプリーゴの作品よりも肉体表現なんかには確かにデル・サルトの特徴がよりはっきりと現れてる印象がありますから、やはりサルト本人の手はそれなりに入ってるのかも知れません。まぁ、未完成で工房に放置されてた作品に色々な手が加えられて今の形になっているというようなところですかね。
この絵、2011年にも250~350万ポンド(当時のレートで3.2~4.5億円位)のエスティメートでクリスティーズに出品されてましたが、不落札になったようですし、シンガポールなんかでも売りに出されてたらしい。
この絵に西美が払いましたる大枚は7億1025万5千円!!
結局2000年のオークションの時からブツブツ言ってたマティーセン・ギャラリーからの購入。
正直税金払ってる一国民として、この購入を決めた学芸員の判断には賛成しません。
確かにデル・サルトの絵を買えるチャンスなんて今後まずないでしょうから欲しくなる気持ちは分かるけど、我慢して欲しかった。。
テキサスにキンベル美術館っていうルイス・カーンの建築で有名な美術館があります。
ゲティ美術館やクリーヴランド美術館と並んで潤沢な購入予算を持ってる金満美術館です。
しかしコレクションの質では他の二館に大きく劣ると思います(もちろん中には大変優れた作品もあります)。蓋しこの美術館は画家の名前だけで絵を買う悪いクセがあるのが原因かと。キャプションの名前だけ見てたらもの凄い超一級コレクションなんだけど、実際に心躍らせ眼を楽しませるような作品は少ない。
西美にはそういう美術館にはなって欲しくないんですよね~(一枚で心配し過ぎか...)
とくに(たとえ真作でも)明らかに優れたヴァージョンが別にある絵は買うべきではないと思います。論文でも図録でも必ず「より質の低いレプリカが東京にある」、って言及されちゃいますし、西美ファンとしては、高級品でこそなくとも質実で作り手の心が伝わるような作品を一点一点集めてきたセレクトショップに、突然まがいもんのブランド品が並べられたような不快感、違和感があります。
西美も伝ルーベンスの「ロトとその家族」で懲りてると思ってたんだけどなぁ~。。
(いや、「ロトとその家族」は高く買ったのが問題なだけで必ずしも悪い絵ではないです)
なんか急に購入予算が増えたら、買い方が雑になってきたような気がするなぁ~。
勿論オタワの作品も確認しに行ってると思うんだけど、何故買った?
やっぱりオークションで直接買えるようにしないと、選択肢も少ないし金も無駄でしょうがないですよ、国会議員の皆さん。。
で、そんなこと言ってるうちに一年の経つのは早いもので、
又々西美の新規調達情報が!!
なんかこのブログ...最近は西美の広報係でもやってるような気がするな...
ま、それはそれでいいんだけど、、
今のところ今年度の新収品として西洋美術館は以下の①~⑤の5件の作品(6点)を
購入したようです。
何ヶ月かの内にはホームページに載ると思いますが、
一応作品名から分かることをいくらか調べてみましたよ(間違ってたらご勘弁)。
(最近は官報の全文がネットで簡単に見られなくなっちゃたので価格は分かりません。
どなたか会社の有料サービスで全文見れるとか、図書館で見てくる暇があるとかいう方は
分かったらお教え下さい)
①バルトロメオ・マンフレーディ(Bartolomeo Mandredi,1582-1622) 「キリスト捕縛」
これは去年のサザビーズの展示即売会に出てた下の作品で間違いないと思います。
マンフレーディはカラヴァッジョフォローワー(いわゆるカラヴァジェスキ、もっと広くテネブリズムなんて言い方もあり
ますね)を代表する画家の一人で、実際にカラヴァッジョに弟子入りしていた時期もあったと考えられている画家です。

その後ロンドンの某有名ギャラリー(割と詳しい解説あり)を経て、西美が買った模様。
(さっそくギャラリーのホームページでSOLDになってるし...)
実はその前には2002年ウィーンのドロテウムでマンフレーディ周辺作として
5万ユーロで落札された作品。
洗浄したら質の高い真作だったというなんだかカラヴァジェスキの絵にはよくある展開。
西美はいくらで買ったんだろ...怖いなぁ~。200万ユーロくらいならしょうがないけど、
もっと高く売りつけられてる気がする...。
「キリスト捕縛」というとなんといってもカラヴァッジョ先生の下の絵が有名。。
(1990年に200年ぶりにアイルランドで発見されて大いに話題になった作品。
同構図のもう1枚は何年か前にウクライナの美術館から盗まれた後、悲惨な状態で回収されてこれも又話題になりました)

こうして並べてみると(まぁ大樹の陰のマンフレ君には気の毒な話ですが)、
やっぱカラヴァッジョは劇的な構図や表情にしても、光の当て方にしても格段に上手いな~。
兵士の肩甲をド真ん中に置いてハイライトを当てるなんて子憎くたらし過ぎる!!
無抵抗な救世主を左に追い詰める横暴な権力。
悲劇に向かう運命を指を組んで諦念とともに受け止めるかのようなイエス。
兵士を左右に配置し、イエスに驚いたように手を広げさせたマンフレーディの作品と比べると
その天才ぶりは一層際立ちます。
でもマンフレーディはこのちょっと抑制されたぼんやりとした表情やありきたりなポーズ
なんかが彼独自の魅力であるのかも知れず、
長いこと見ていると、いかにも演出されたドラマの一場面のようなお師匠さんの精到な作品
よりも、むしろ訥々としたなにがしかの真実味が湧いてくるようにも思います。
このタイミングで買ったってのはやはり来年やるカラヴァッジョ展の布石ですかね?
西美には狭い意味でのカラヴァジェスキの作品というと
あんまり質の良くないテルブリュッヘン(派)の作品があるくらいで
展覧会に並べて出すにはちょっと恥ずかしかったんですが、
このマンフレーディの作品なら堂々と出せますからね。
あ、そういえばかつてはコレクターとして有名だったレオポルド・ヴィルヘルム大公の
コレクションに入ってたみたいで、大公の美術品の管理や購入を任されてたお抱え画家の
D.テニールス(子)の絵にも書き込まれてるみたい。
多分下の絵の中央やや右上に描かれてる作品だと思うけど反転してますね?違うんかな?

D.テニールス(子)「ブリュッセルのレオポルド大公のギャラリー」,96×128cm,1640,シュライスハイム宮殿(ミュンヘン)
②エヴァリスト・バスケニス(Evaristo Baschenis,1617-77) 「楽器のある静物」
バスケニスは楽器の絵がオハコで沢山ありますから購入作を特定するのは難しいですね。
個性的・魅力的な静物画家なので質の高いものなら大歓迎。。
自分としてはリュートや地球儀が描いてあればなお嬉し。
西美は去年もファン・バン・デル・アメン買ったし、なにげに17cの静物画が
充実してきましたな。
③アンゲリカ・カウフマン(Angelica Kauffmann,1741-1807)「パリスを戦場へと誘うヘクトール」
これは恐らく去年のオークションに出てたこの作品かと。
まぁそこそこの絵かなーと思いますけど、女性画家の作品が入るのは良いですね。
近年西美が買う18cの絵はカプリッチョとか風景画系ばっかりだったし。
最初ややラフな筆致からシェイクスピアの『トロイラスとクレシダ』の挿絵版画のための
油彩スケッチなんじゃないかと思ったんですが、サイズが大きすぎるしクリスティーズの
解説にもそんなこと書いてないので、やっぱりホメロスのトロイア戦争の一場面を描いた
神話画(歴史画?)と見るのが正しいようです。
カウフマンは今回購入した中では一応一番のビッグネームかな。
それには現代における英語の影響力も大きいと思う。
(彼女はドイツ系スイス人ですけどロンドンで長いこと活躍しました)
なんか大陸から英国に渡った画家って、大陸内での移動とは微妙に扱いが違いますよね。
英語文献で読むからなのか、英国はやはりヨーロッパではないのか...
ちなみに同じくスイス出身のフュースリとは同い年でロンドンに渡った時期もほとんど同じ。
西美はフュースリの大作持ってるので、他のロココ絵画からの良い橋渡しになりそうです。
(そうなると18-19cの英国絵画ももう少し欲しくなっちゃいますね)
④レオン・ボナ(Leon Bonnat,1833-1922) 「パヌーズ子爵夫人の肖像」
ボナっていうと国内では19cのフランス絵画の展覧会で時々1~2枚出品されてるのを見る位
ですが、欧米の美術館にはかなり入ってるので当時は人気があったんでしょうね。
カイユボットやロートレック、ブラック、デュフィなんかを教えたこともあり、
エコール・デ・ボーザールの学長までやった人です。
今wiki見たら、お父さんがマドリッドで書店やってた関係で10代の何年かをスペインで
過ごしたらしい。ヴェラスケス風の肖像画もそれなら納得。
当時のフランスではスペイン趣味がかなり流行ってたってのは(マネなど)有名ですけど
彼のはそれに乗っかっただけじゃないんですね。
西美にも近年買ったドレの「シエスタ」とかクールベの「ジプシー女」とかがあるので、
ゴヤやピカソあたりまで絡めて「19世紀のフランスとスペイン、交差するまなざし」、ってな
展覧会でもやって欲しい。
ここ日本だとむしろボナの名は本人の絵よりも五姓田義松が師事した画家として知ってる人の
方が多いかも。
もしかして神奈川県博で19日から始まる五姓田義松展に合わせて買ったんかな??
いや、それはないか。。でも一応タイムリーな買い物かも知れん。
⑤ラファエル・コラン(Raphael Collin,1850-1916) 「楽」「詩」
どんな絵か分かんないけど、まぁコランお得意の田園風景の中に女性を配した寓意画
の類ですかね。
昔やったコラン展に出品されてたような気もするけど図録買わなかったので確認できず。
いずれにしても西美がわざわざコラン買うってのは国内のコレクションに入ってた作品
なんだろうと思います(あるいは上のボナの作品も?)。
以上全体としては今年は一般の知名度はないけれど、オールドマスターズ好きのファンや研究者には、おっ!と思ってもらえる渋めのセレクトという感じがします。。
基本こうした美術史的なツボを押さえた収集をベースにするのは大賛成です。
時々はキャッチーな絵やメジャーな画家も買っとかないと
花がなくて一般の人には??ってな絵ばっかりになっちゃいますけどね。
それが名前ばっかで質のイマイチな作品に7億円じゃ困るんだけどさ...(俺もしつこいな)
以上特にオチもなく去年今年の西美新収品批評の回でした。。
(あ、東近美のフジタの小企画展も良かったですよ。お暇な方は是非!)
→私は昔から見たかった未公開の戦争画が見られて図録も買えて良かったんですが、
友人は陰気で気分が滅入る展示だったとの感想。。確かにそれはそうかもな...
もう3,4ヶ月前ですけど。
激しく脱力、、西美のデル・サルトやフェルメールの感想書く元気も湧かず...
普段外付けのHDに画像とか保存してて、
時々もう一台のHDにそれをバックアップしてたんですが、容量の関係で
一旦バックアップ用HDの前データ全部消去してから新しくバックアップしてたんです。
それがよりによってデータ消去したタイミングで元データHDも破損というありえない展開!
何日か前からカタカタ音がしてたんでバックアップを急いだのが裏目だった...。
日本美術や中国美術中心にスキャンしたり撮影したりした画像20万枚以上入ってたのに
全てパー。気持ちいいくらいにクルクルパー。。笑っちゃいますね。
データリカバリーできるかどうか診断できるフリーソフトで調べてみようとしたんですけど
診断終了まであと600時間かかりますって表示が...うそだろーって思い1日つけっぱなしに
してみても、ちょっとしか進まず。
へぇ~ホントに600時間かかるんだ~、、、ってやってられんわー!!
データ復元っていくらかかるんでしょうね。数万円ならいいけど数十万じゃなぁ...。
でも何かを失った時に感じるこの自由さは何だろう...?
犬が死んだときに心の中で思った、悲しさとウラハラの
「もう散歩連れてかなくていいのか...」みたいな...(ポチごめんな~)
ま、うちのデータ管理状況書いてもしょうがないので
数ヶ月前に書こうと思ってた国立西洋美術館のアンドレア・デル・サルトについて一言二言。
西美がデル・サルト買ったってのをネットで見て
頭に浮かんだのは2000年1月28日N.Y.サザビーズに出て話題になった下(左)の作品。
(100~150万ドルの評価で出品、下限の100万ドルで落札)
近年デル・サルトの油彩の出物なんてそれ以外に記憶になかったですからね。
西美のサイトに画像が掲載されたのを見たら、やっぱその聖母子像だったあるよ。
なんでそんな昔のオークションを覚えてたかというと、
発見、出品の経緯が一般のニュースになる位話題になった絵だったからです。
この絵、もとは20世紀初めにクララ・ウィンスロップという人がマサチューセッツ州の小さな教会に寄贈したもの(ちなみにウィンスロップ家はマサチューセッツ湾植民地初代知事のジョン・ウィンスロップから続くニューイングランドの超名家で、ブッシュ前大統領やケリー国務長官も血縁の一人です)。
寄贈者も教会も200年位前のコピーだろうと思ってて近年は倉庫に放置されてたんだそうです。
オールドマスターズの絵には時々ある再発見ストーリーですね。
で、サザビーズとしてはなるべく劇的な発見という風に盛り上げて
高く売りたかったんでしょうけど、結果はいま一つでした。
率直に言って絵自体が精彩を欠くものでしたし、
後にサザビーズが作品の状態を正直にレポートしてなかったんじゃないか、工房作とするのが妥当なんじゃないかっていう疑惑も持ち上がりました。
さて、この絵、実は同じ図柄のヴァージョンがオタワの国立美術館にあるのが以前から知られていました(下の右の絵)。

向かって左が西美が買った作品。右がオタワ国立美術館蔵。 二つの作品を較べてみると、、
オタワの作品の方には、ポントルモやロッソ・フィオレンティーノに受け継がれる白けた感じのカラフルな色彩やスフマート、あるいはサルト独特のやや陰りのある表情なんかがよく表れてて間違いなくサルトの真作だと思うんですけど、西美の作品は全体にいかにも硬い感じで、顔の表情にも深みがなくのっぺりした印象ですよね。。
状態も良くないし、西美の解説パネルが近年の補作(19c~20c初め位の意?)という背景の緑がかなり不快なのを除いても正直あまり優れた作品だとは思えん。
では以前のオークションの時に問題となったように基本工房作なのかというと、隣に展示してある弟子のプリーゴの作品よりも肉体表現なんかには確かにデル・サルトの特徴がよりはっきりと現れてる印象がありますから、やはりサルト本人の手はそれなりに入ってるのかも知れません。まぁ、未完成で工房に放置されてた作品に色々な手が加えられて今の形になっているというようなところですかね。
この絵、2011年にも250~350万ポンド(当時のレートで3.2~4.5億円位)のエスティメートでクリスティーズに出品されてましたが、不落札になったようですし、シンガポールなんかでも売りに出されてたらしい。
この絵に西美が払いましたる大枚は7億1025万5千円!!
結局2000年のオークションの時からブツブツ言ってたマティーセン・ギャラリーからの購入。
正直税金払ってる一国民として、この購入を決めた学芸員の判断には賛成しません。
確かにデル・サルトの絵を買えるチャンスなんて今後まずないでしょうから欲しくなる気持ちは分かるけど、我慢して欲しかった。。
テキサスにキンベル美術館っていうルイス・カーンの建築で有名な美術館があります。
ゲティ美術館やクリーヴランド美術館と並んで潤沢な購入予算を持ってる金満美術館です。
しかしコレクションの質では他の二館に大きく劣ると思います(もちろん中には大変優れた作品もあります)。蓋しこの美術館は画家の名前だけで絵を買う悪いクセがあるのが原因かと。キャプションの名前だけ見てたらもの凄い超一級コレクションなんだけど、実際に心躍らせ眼を楽しませるような作品は少ない。
西美にはそういう美術館にはなって欲しくないんですよね~(一枚で心配し過ぎか...)
とくに(たとえ真作でも)明らかに優れたヴァージョンが別にある絵は買うべきではないと思います。論文でも図録でも必ず「より質の低いレプリカが東京にある」、って言及されちゃいますし、西美ファンとしては、高級品でこそなくとも質実で作り手の心が伝わるような作品を一点一点集めてきたセレクトショップに、突然まがいもんのブランド品が並べられたような不快感、違和感があります。
西美も伝ルーベンスの「ロトとその家族」で懲りてると思ってたんだけどなぁ~。。
(いや、「ロトとその家族」は高く買ったのが問題なだけで必ずしも悪い絵ではないです)
なんか急に購入予算が増えたら、買い方が雑になってきたような気がするなぁ~。
勿論オタワの作品も確認しに行ってると思うんだけど、何故買った?
やっぱりオークションで直接買えるようにしないと、選択肢も少ないし金も無駄でしょうがないですよ、国会議員の皆さん。。
で、そんなこと言ってるうちに一年の経つのは早いもので、
又々西美の新規調達情報が!!
なんかこのブログ...最近は西美の広報係でもやってるような気がするな...
ま、それはそれでいいんだけど、、
今のところ今年度の新収品として西洋美術館は以下の①~⑤の5件の作品(6点)を
購入したようです。
何ヶ月かの内にはホームページに載ると思いますが、
一応作品名から分かることをいくらか調べてみましたよ(間違ってたらご勘弁)。
(最近は官報の全文がネットで簡単に見られなくなっちゃたので価格は分かりません。
どなたか会社の有料サービスで全文見れるとか、図書館で見てくる暇があるとかいう方は
分かったらお教え下さい)
①バルトロメオ・マンフレーディ(Bartolomeo Mandredi,1582-1622) 「キリスト捕縛」
これは去年のサザビーズの展示即売会に出てた下の作品で間違いないと思います。
マンフレーディはカラヴァッジョフォローワー(いわゆるカラヴァジェスキ、もっと広くテネブリズムなんて言い方もあり
ますね)を代表する画家の一人で、実際にカラヴァッジョに弟子入りしていた時期もあったと考えられている画家です。

(さっそくギャラリーのホームページでSOLDになってるし...)
実はその前には2002年ウィーンのドロテウムでマンフレーディ周辺作として
5万ユーロで落札された作品。
洗浄したら質の高い真作だったというなんだかカラヴァジェスキの絵にはよくある展開。
西美はいくらで買ったんだろ...怖いなぁ~。200万ユーロくらいならしょうがないけど、
もっと高く売りつけられてる気がする...。
「キリスト捕縛」というとなんといってもカラヴァッジョ先生の下の絵が有名。。
(1990年に200年ぶりにアイルランドで発見されて大いに話題になった作品。
同構図のもう1枚は何年か前にウクライナの美術館から盗まれた後、悲惨な状態で回収されてこれも又話題になりました)

やっぱカラヴァッジョは劇的な構図や表情にしても、光の当て方にしても格段に上手いな~。
兵士の肩甲をド真ん中に置いてハイライトを当てるなんて子憎くたらし過ぎる!!
無抵抗な救世主を左に追い詰める横暴な権力。
悲劇に向かう運命を指を組んで諦念とともに受け止めるかのようなイエス。
兵士を左右に配置し、イエスに驚いたように手を広げさせたマンフレーディの作品と比べると
その天才ぶりは一層際立ちます。
でもマンフレーディはこのちょっと抑制されたぼんやりとした表情やありきたりなポーズ
なんかが彼独自の魅力であるのかも知れず、
長いこと見ていると、いかにも演出されたドラマの一場面のようなお師匠さんの精到な作品
よりも、むしろ訥々としたなにがしかの真実味が湧いてくるようにも思います。
このタイミングで買ったってのはやはり来年やるカラヴァッジョ展の布石ですかね?
西美には狭い意味でのカラヴァジェスキの作品というと
あんまり質の良くないテルブリュッヘン(派)の作品があるくらいで
展覧会に並べて出すにはちょっと恥ずかしかったんですが、
このマンフレーディの作品なら堂々と出せますからね。
あ、そういえばかつてはコレクターとして有名だったレオポルド・ヴィルヘルム大公の
コレクションに入ってたみたいで、大公の美術品の管理や購入を任されてたお抱え画家の
D.テニールス(子)の絵にも書き込まれてるみたい。
多分下の絵の中央やや右上に描かれてる作品だと思うけど反転してますね?違うんかな?

②エヴァリスト・バスケニス(Evaristo Baschenis,1617-77) 「楽器のある静物」
バスケニスは楽器の絵がオハコで沢山ありますから購入作を特定するのは難しいですね。
個性的・魅力的な静物画家なので質の高いものなら大歓迎。。
自分としてはリュートや地球儀が描いてあればなお嬉し。
西美は去年もファン・バン・デル・アメン買ったし、なにげに17cの静物画が
充実してきましたな。
③アンゲリカ・カウフマン(Angelica Kauffmann,1741-1807)「パリスを戦場へと誘うヘクトール」
これは恐らく去年のオークションに出てたこの作品かと。
まぁそこそこの絵かなーと思いますけど、女性画家の作品が入るのは良いですね。
近年西美が買う18cの絵はカプリッチョとか風景画系ばっかりだったし。
最初ややラフな筆致からシェイクスピアの『トロイラスとクレシダ』の挿絵版画のための
油彩スケッチなんじゃないかと思ったんですが、サイズが大きすぎるしクリスティーズの
解説にもそんなこと書いてないので、やっぱりホメロスのトロイア戦争の一場面を描いた
神話画(歴史画?)と見るのが正しいようです。
カウフマンは今回購入した中では一応一番のビッグネームかな。
それには現代における英語の影響力も大きいと思う。
(彼女はドイツ系スイス人ですけどロンドンで長いこと活躍しました)
なんか大陸から英国に渡った画家って、大陸内での移動とは微妙に扱いが違いますよね。
英語文献で読むからなのか、英国はやはりヨーロッパではないのか...
ちなみに同じくスイス出身のフュースリとは同い年でロンドンに渡った時期もほとんど同じ。
西美はフュースリの大作持ってるので、他のロココ絵画からの良い橋渡しになりそうです。
(そうなると18-19cの英国絵画ももう少し欲しくなっちゃいますね)
④レオン・ボナ(Leon Bonnat,1833-1922) 「パヌーズ子爵夫人の肖像」
ボナっていうと国内では19cのフランス絵画の展覧会で時々1~2枚出品されてるのを見る位
ですが、欧米の美術館にはかなり入ってるので当時は人気があったんでしょうね。
カイユボットやロートレック、ブラック、デュフィなんかを教えたこともあり、
エコール・デ・ボーザールの学長までやった人です。
今wiki見たら、お父さんがマドリッドで書店やってた関係で10代の何年かをスペインで
過ごしたらしい。ヴェラスケス風の肖像画もそれなら納得。
当時のフランスではスペイン趣味がかなり流行ってたってのは(マネなど)有名ですけど
彼のはそれに乗っかっただけじゃないんですね。
西美にも近年買ったドレの「シエスタ」とかクールベの「ジプシー女」とかがあるので、
ゴヤやピカソあたりまで絡めて「19世紀のフランスとスペイン、交差するまなざし」、ってな
展覧会でもやって欲しい。
ここ日本だとむしろボナの名は本人の絵よりも五姓田義松が師事した画家として知ってる人の
方が多いかも。
もしかして神奈川県博で19日から始まる五姓田義松展に合わせて買ったんかな??
いや、それはないか。。でも一応タイムリーな買い物かも知れん。
⑤ラファエル・コラン(Raphael Collin,1850-1916) 「楽」「詩」
どんな絵か分かんないけど、まぁコランお得意の田園風景の中に女性を配した寓意画
の類ですかね。
昔やったコラン展に出品されてたような気もするけど図録買わなかったので確認できず。
いずれにしても西美がわざわざコラン買うってのは国内のコレクションに入ってた作品
なんだろうと思います(あるいは上のボナの作品も?)。
以上全体としては今年は一般の知名度はないけれど、オールドマスターズ好きのファンや研究者には、おっ!と思ってもらえる渋めのセレクトという感じがします。。
基本こうした美術史的なツボを押さえた収集をベースにするのは大賛成です。
時々はキャッチーな絵やメジャーな画家も買っとかないと
花がなくて一般の人には??ってな絵ばっかりになっちゃいますけどね。
それが名前ばっかで質のイマイチな作品に7億円じゃ困るんだけどさ...(俺もしつこいな)
以上特にオチもなく去年今年の西美新収品批評の回でした。。
(
→私は昔から見たかった未公開の戦争画が見られて図録も買えて良かったんですが、
友人は陰気で気分が滅入る展示だったとの感想。。確かにそれはそうかもな...
by brevgarydavis | 2015-09-15 00:46

